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近似を基本とし、津波波形の計算精度の向上を図る。さらに、対象とする港湾区域は、陸上連上と防潮堤等の越流を扱い。海域・陸域を含めて、50m格子による地形近似を行う。こうして完成した南海道システムは、表-1の領域構成にまとめるように、領域数40となり、総格子数815,000個(約900×900個)となる。
また、図-2は、大阪湾システムの主要な計算領域にあたる大阪湾の水深分布及び対象港湾の位置を表す。図-2に表すように、大阪湾内の5港湾は、港湾区域が隣接し、50m格子による地形近似を行う領域は連続する。完成した大阪湾システムの領域構成は、南海道システムと同範囲となる大阪湾の外側領域も含めて、領域数28、総格子数976,600個となる。
さらに、図-3は、山陰システムの計算範囲と水深分布及び対象港湾の位置を表す、山陰システムは、波源域が山陰沖にないため、沖側境界に伝播する津波を、沖側の入射波条件として与える必要がある。そこで、別途、日本海全域を1.8km格子で地形近似する計算領域を設定し、日本海全域の津波伝播計算から津波波形を求め、その後、山陰沿岸の津波計算を行う。完成した山陰システムの領域構成は、日本海全域を含める領域数41、総格子数は日本海全域が703,250個、山陰沿岸が1,663,000個となる。
2−3. 計算理論と方法
広域津波計算システムによる津波数値シミュレーションの理論式は、非線形長波理論より導かれる連続式と運動方程式であり、差分化は、空間差分にスタッカート格子、時間差分にリープ・フロッグ法を用いる。津波を励起する初期の海面水位分布は、地殻の弾性理論に基づく方法を用いて、地震運動をモデル化し、断層パラメータを入力条件として推定する。南海道システム及び大阪湾システムは、計算領域内に津波の波源が位置するため、沖側境界条件は、計算領域内で発生する反射波を自由透過する放射条件を用いる。それに対し、山陰システムは、計算領域内に波源がないため、計算領域内に伝播する津波の波形を境界から入力する必要がある。
山陰沿岸に到達する津波の波源は、例えば、日本海中部地震津波の場合、青森・秋田沖に位置する。そのため、波源域を包含する日本海全域の津波伝播計算を先行して行い、山陰沿岸の計算領域の沖側境界に伝播する津波波形を求め、これを沖側境界条件とする沿岸計算を行う。
一方、海岸部の境界条件は、陸上遡上を考慮する場合、岩崎・真野の方法4)にならい、移動境界条件を用いる。また、陸上連上を考慮しない場合、完全反射条件とする。
次に、多領域の同時計算に必要となる領域間の接続境界における処理について述べる。津波計算は、前述したように、沖合から海岸にかけて順次細分化した計算領域を結合して同時計算を行う。通常、格子間隔の細分化は、2分割法と3分割法を併用し、計算範囲内の格子間隔の異なる領域間の接続境界が複数設定される。この接続境界の格子において、水位と流量の計算を行う場合、計算に必要な変数の定義点が他領城内に位置することになる。このような変数値を、他領域の変数値を補間することにより求めるのが接続境界の処理である。
本システムの接続処理の最大の特徴は、接続格子点の流量計算において、非線形項も考慮する点である、従来の接続境界における流量計算は、非線形項を無視して近似解を求めていたが、本システムで扱う大阪湾のように、対象港湾が隣接する場合、接続境界を非線形性が無視できない海岸及び陸域に設定する必要が生じる。非線形項を考慮すれば、精度低下は回避できる。
今、非線形項の計算を例に、具体的な補間方法を説明する。図-5は、座標(i,j)のx成分流量Mi,jの計算において、非線形項の計算をする場合に必要な既知変数の配置を表すものであり、図中の破線が接続境界を表す。ここで、接続境界の格子点の判定は、あらかじめ格子データ作成において、接続境界位置を判別する情報を与えればよい。図-5の既知変数のうち、他領域内に位置する格子の水深とx,y成分流量は、他領域の変数値を空間補間して求める。そのために、接続境界においては、他領域内に2行2列の予備格子を配置する必要がある。この補間が必要な変数の定義位置を、他領域内で求めることは、繁雑な作業を伴うが、本システムでは、全計算領域の基準となる計算原点(xo,yo)を座標(0.0.0.0)とする統一座標系を定義することにより対処する。この座標系を定義すると、複数の領域が存在しても、各領域の原点(xGm,yGm)と領域内の格子位置(im,jm)が既知であれば、統一座標系上における格子中点の座標(xP,yP)が簡単に求められる、(xP、yP)が、他領域内にあれば、変数値を補間して求めることになる。全計算領域の統一座標系と任意計算領域mの格子の座標(xP,yP)との関係は、図-6のように表される。
3. 広域システムによる既往津波の追算
3−1. 最大津波高の計算精度
南海道システムにおいて追算を行う昭和南海地震の断層モデルは、津波調査に多くの実績を持つ相田(1981)モデル5)を採用する。このモデルは、線形長波式による津波数値シミュレーションの成果と痕跡高を比較し、試行錯誤的に断層パラメータを決定しており、津波数値シミュレーションに適する断層モデルであると評価される。
図-6は、相田(1981)モデルにより計算される南海道沿岸の最大津波高分布である、津波の追算は、発生後5時間にわたり行い、この間に各格子点で計算される最大津波高をもとに、図の等値線を描いている。図-6には、海岸沿いの格子点における最大津波高の分布と津波来襲後の現地調査により測定された痕跡高との比較も表す。図中、黒丸は痕跡高、実線が計算値の分布を表す。計算値の沿岸分布は、分布傾向と最大津波高とも、痕跡高の分布をほぼ再現している、相田にならい定量的な評価を行うと、計算値の幾何平均は0.93、幾何

 

 

 

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